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“生きることは知ること”を教えてくれた本 2012/11/26更新 【チームひつじさん #5】

セクシュアルマイノリティ 『セクシュアルマイノリティ ―同性愛、性同一性障害、インターセックスの当事者が語る人間の多様な性 (第3版)』
セクシュアルマイノリティ教職員ネットワーク
明石書店
(2002/01出版)

 今回取り上げたのは、昔の卒業生Aさんから教えてもらった本だ。同時に、知ることで人は救われる。そして本は人を救うことができる。ということを実感した。
 その人は身近な問題としてセクシュアリティを悩み、何かを探しに図書館に来た。司書(私)が提示した関連の何冊かを読み、そして逆にこの本を強くすすめてくれた。「この本を読んで、いろいろ考えていたことが繋がりました。深く息ができるようになりました。読んでよかった。」といいながら。
 本を間にはさんで、Aさんからは性を考えること、規範的な性を超えて生きること、そして学校教育の中でそれを教えることの必要性を、私からはマイノリティのこと、たとえば学校司書であること、働くということなど多くのことを話した。
 Aさんが卒業してから改めてこの本を読み、私自身がセクシュアリティのことを全くと言っていいほど知らなかったことに気づかされた。司書としての知識の浅さを恥じつつ、Aさんにとって、ずいぶん物足りなかっただろうなあと申し訳なく思う。
 けれどまた悩める人が来たら今度はもう少し近道のレファレンスができるはず。それもAさんのおかげだけれど。

 以下は本の内容紹介。
 セクシュアリティSexualityとは、生(生活、人生)と密接に結びついた人間の性のあり方のこと。この本は、セクシュアリティの複雑さ…恋愛や性のみの問題ではなく、人間としての本質やアイデンティティに深く関わっていること…が理解できる入門書である。
 第1章では、身体の性と、男女に区分できないインターセックスIntersexについて。まず生物学的なところから説明が始まる。
 第2章は性同一性障害について。身体の性と心の性の不一致について詳しく書かれている。
 第3章は同性愛について。興味本位で取り上げられることが多いが、それも含め社会との関わりが大きく影響することがよくわかる部分。
 編著者は、日本人の当事者であり、また教職員なので、学校現場でのテキストを意識して編集している。そのため思い入れの強い部分もあるが、入門書としてわかりやすい。
 タイトルのセクシュアルマイノリティSexual Minorityは、性的少数者のこと。この社会では異性愛者が多数で、同性愛者は少数であるという意味かと単純に思っていた。が、少数派の悲哀以上に、『正常』な性のあり方から逸脱することによって被る不利益、それは市民としての権利や、精神的なダメージ等多岐にわたることを意味している。本質は、誰もが直面する人間関係と生き方(ライフスタイル)の問題であることに変わりはないのに。そんなことが理解できる本。

*本稿は初版(2003年3月出版)をもとに執筆した。2012年9月に第3版(ISBN:9784750336732)が出ているので、より現状に適していると思う。

<長坂 美紀>
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