ひとこまコラム バックナンバー
賑やかな温かさに癒される 2016/04/27更新 【チームつながる輪〜 #46】
『逢沢りく 上,下』 ほしよりこ【著】 文藝春秋 (2014/10発売) |
今年度も夏休みに図書委員を連れて店頭選書に行った。「図書委員として責任を持って選んでください」と話してスタート。コミック・ライトノベルコーナーで一気にみんなのテンションが上がる。でもなかなかカゴに入れない。「これ、いいのかな」囁きが聞こえる。やばい、最初にハードルを上げすぎたか……と焦って、自由に選んでいいんだよと声をかけた。その時、図書委員が選んだ中の1冊がほしよりこさんの『逢沢りく』である。
逢沢りくは14歳の中学生、友だちから特別な存在と思われている美少女だが、冷めた目で周りを見ていて、嘘の涙を自在に流すことができる。スタイリッシュで恵まれた生活に見えて、両親と娘のそれぞれが満たされない心を抱えている逢沢家。ある出来事がきっかけで、りくは関西に住む大おばさんの家に預けられることになる。
大嫌いな関西弁が飛び交う賑やかな大家族に放り込まれて混乱し、泣けなくなったことに戸惑うりく。絶対に染まらないと自分に言い聞かせながら、少しずつ変化していくりくの心が繊細に描かれている。頑ななりくを大らかに受け入れる大おばさん一家の温かさがとても心地よい。いろいろなことにちょっと疲れてしまった生徒を見つけたら、そっと薦めたい作品だ。
それにしても、ほしさん独特のラフな下書きのような絵なのに引き込まれる。むしろ綺麗にペン入れされたら台無しになってしまうように感じられるのが不思議だ。
<小池 美智代>