ひとこまコラムリターンズ 第53走者
本当は好きな本を薦めたいけど
2023/02/07更新
『気持ちを表すことばの辞典』 飯間浩明【著】 ナツメ社 (2021/06) |
三年生に過去問について意見を求められたときのことです。国語の問題文中にあったカール・フォン・リンネの名前の部分に、カールに〇、フォンに〇、リンネに〇、としてあるのでどうしたのかと問えば、「はじめ、三人いるんだと思った」と。読み進めるうちにどうも違うなと気が付いたとのことですが、これには衝撃を受けました。
しかし確かに言われてみれば、こうした表記のカタカナをまとめて人名だと受け止められるようになったのはいつからだろうかと自問しました。勿論、世界史の授業をはじめ出会う機会はいつでもありますが、私が思い至ったのは中学生の頃から愛読する『銀河英雄伝説』(田中芳樹著)でした。ドイツ風の名前が沢山出てきて、爵位のある人にはフォンがつくというのもこれで知ったのです。
本が好きだと、フィクションから様々な知識を得ることは普通のことと思いがちですが、本を読まないどころか漫画もテレビもあまり見ない、それ以外の娯楽と勉強に忙しい生徒たちにはそうではありません。書き言葉に弱く、何につけても「何の役に立つの?」なんて台詞が出がちな生徒には良く出会います。何でも知っていて損はないし、何よりフィクションは楽しいのですが、どうしたらそれが伝わるものかいつも頭を悩ませています。
『銀英伝』は、普段本を読まない生徒にいきなり薦めるにはハードルが高いため、薦めたい気持ちをぐっとこらえ、件の三年生には『気持ちを表すことばの辞典』を渡してみました。目にも楽しくめくりやすい本で、卒業までに一つでも新しい言葉に出会ってもらえるよう祈るばかりです。
<原田 史菜>