ひとこまコラムリターンズ 第66走者
卒業式の日の返却
2024/2/29更新
『少女は卒業しない』 朝井リョウ【著】 集英社(集英社文庫) (2015/02) |
卒業式が終わり、保護者の誘導を少し手伝った後、卒業生が来るかもしれないので、図書館へ戻る。この学年から回収できていない本が、あと1冊あった。「卒業式予行の日には返却する」という約束で、自由登校期間に入る前に貸した本。予行日には、担任からも「図書館へ行くように」と連絡してもらったのに、図書館に来てももらえなかった。今日返却されなかったら、どうやって督促しよう…と考えていると、彼女がやって来た。よかったー。
「『少女は卒業しない』が『少女は返却しない』になっちゃうかと思ったよ」
「(笑)偶然だけどぴったりな本でした」
『少女は卒業しない』には、卒業式の日に、名残惜しさを込めて、図書室で本を返却する話が入っている。彼女にも、何か思うところがあったのかな?
彼女は、いつもひとり、閲覧室の書架の奥の席で、本を読んだり音楽を聴いたりお昼寝したり、くつろいで過ごしていた。何度か「今まで読んだ本のリストが欲しい」と言われてプリントしてあげたことがあるけれど、私との会話もほとんどなかった。
「3年間、図書館を利用してくれてありがとう。これからも、いろんな本を読んでね」
すると最後に、うれしい言葉をくれる。
「2年生の後半から図書室に来はじめたけど、ここが一番、居心地がよかった」
心あたたまる、卒業式の日の返却だった。
<からすみ>