ひとこまコラムリターンズ 第73走者

先生も生徒も。年に1人はかならずハマる。   2024/11/01更新

『源氏物語 A・ウェイリー版』
『源氏物語 A・ウェイリー版』
 紫式部【著】アーサー・ウェイリー【英訳】毬矢まりえ+森山恵姉妹【日本語訳】
 左右社
 (2017.12)

 令和6年のNHK大河ドラマのヒロインが『源氏物語』の著者、紫式部だと知ったとき激しくときめいた。そして初回放送開始数分後、わたしは静かに息を吐いてテレビの前を離れ、強く決意した。当館に「NHK大河ドラマコーナーを作ろう」と。幸い当館には多様な訳者の『源氏物語』があった。しかし肝心の、イチオシの『A・ウェイリ―版』がない。(ウェイリー版は他社からも出版されているが、わたしは断然左右社版推しである)当然、速攻で発注した。
 届いた本をPOPと共に展示していると、さっそく男子生徒がやってきた。薦めたが、分厚い4冊組に腰が引けている。
「ま、ちょっと試しにさ、座ってパラパラ見てみてよ」
 彼は昼休み終了の予鈴に立ち上がることができず、結局それを借りて行った。

――あなたの唇が拒む甘い言葉を、かわりにシターンが奏でてくれるなら――

 嗚呼!なんという耽美的な勘違い!いったいどこの国の何時代の話なんだと日本人は思うが、きっとこれを目にした当時の西洋の人々は、まだ見ぬ極東の古代ロマンにさぞや妄想を掻き立てられたことだろう。
「やべ、ハマった」
 昼休みにウェイリー版を借りて行った生徒が、放課後またやってきて残りの3冊をカウンターに置いた。
「試験期間だけれど大丈夫?」
「大丈夫っす!俺勉強しないんで!」
 さわやかに宣言して、彼は『ウェイリー版・源氏物語』を全巻借りて帰った。


<スズキ>
バックナンバーに戻る