金沢文庫は鎌倉時代のなかごろ、北条氏の一族(金沢北条氏)の北条実時が武蔵国久良岐郡六浦荘金沢(現、横浜市金沢区)の邸宅内に造った武家の文庫です。
その創設の時期についてはあきらかではありませんが、実時晩年の建治元年(1275)ごろと考えられています。蔵書の内容は政治・文学・歴史など多岐にわたるもので、収集の方針はその後も顕時・貞顕・貞将の三代にわたって受け継がれ、蔵書の充実がはかられました。
金沢北条氏は元弘3年(1333)、鎌倉幕府滅亡と運命をともにしましたが、以後、文庫は隣接する菩提寺の称名寺によって管理され近代に至りました。現在の金沢文庫は昭和5年(1930)に神奈川県の施設として復興したもので、平成2年(1990)から装いも新たに中世の歴史博物館として活動を行っています。
県立金沢文庫は、鎌倉時代の諸相を今日に伝える貴重な文化財を後世に伝えるとともに、その調査・研究の成果を展示や講座を通じて公開し、また、皆様の生涯学習の一拠点としてその役割を果たすべく活動を行っています。
現在の金沢文庫の収蔵資料はその多くが金沢北条氏の金沢文庫にあった資料と、一族の菩提寺である称名寺に伝わった貴重な資料です。その概要は次のとおりです。
金沢北条氏歴代(実時、顕時、貞顕、貞将)の肖像画(いずれも国宝)や、称名寺開山の審海上人像(国重文)、極楽寺の忍性像(国重文)などをはじめ、中国からもたらされた十六羅漢像(国重文)や密教絵画など多岐にわたっています。
釈迦如来像(国重文)ならびに、その十人の弟子の姿をあらわした十大弟子像(県重文)、鋳造当時の美しい姿を今に伝える金銅製愛染明王像(国重文)ほか、称名寺に伝来した金沢北条氏ゆかりの仏像がその中心を占めます。
中国との交易によってもたらされた元時代の青磁壺(国重文)や青磁花瓶、日本に現存するものでは唯一と考えられる水晶製の玉華鬘(国重文)、称名寺開山審海が使った密教法具などがあります。
平安時代に書写された『文選集注』(国宝)をはじめ、歴史・政治・文学・宗教などに関する書籍「称名寺聖教」(国宝)約16,000冊、中国・宋代の木版印刷の集大成ともいえる「宋版一切経」(国重文)などを保管しています。そのなかには「金沢文庫」の蔵書印をおしたものもあり、わが国の蔵書印としては最も古いものとされています。
【古文書】
「金沢文庫文書」(国宝)として知られるもので、金沢北条氏一族や称名寺の僧侶たちが書いた手紙類など約4,000通が伝わっています。これらは鎌倉時代のひとびとの日常の暮らしぶりをうかがう貴重な資料です。