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更新日:2024年4月19日

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校長だより

Vol.12【横浜国際高校の探究 ~2年次生の探究活動から~ 】(令和6年3月29日)

横浜国際高校(YIS)の3年間の探究活動は、1年次のSR (Subject Research) で研究テーマ(リサーチクエスチョン:RQ)を決め、2年次のPR (Project Research) で日本語による8,000字の論文、3年次のDR (Discussion & Research) で英語による1,200語の論文を書き上げます。今回は、PRを終える3人の2年次生に、横浜国際の探究活動について聞きました。

<3人の研究課題>

Aさん「認知バイアスが人狼プレイヤーの意思決定へもたらす影響の検証」

Bさん「深夜ラジオ独特の雰囲気の分析を通して新規ファンの獲得方法について考察する。」

Cさん「BLとゲイカップルの認識差異がもたらす弊害とその防止策」

 

はじめに3人の研究テーマとそのテーマを選んだ理由を教えてください。

Aさん「私は、人狼ゲームを題材にして、認知バイアスが人狼ゲーム人狼と認知バイアスの意思決定にどのような影響を与えているかについて研究しました。この研究テーマを選んだ経緯は、もともとAIに興味があって、近年のAIは深層学習というものを使って人間らしいことを返してくれていますが、ブラックボックス問題というのがあって、深層学習を使ったAIは、何か聞いたらそれっぽいことを返してくれるんですけど、どのようにしてそれを考えたかというのがないんです。でも、思考の根拠がわからないと困る場面があって、例えば医療の現場で、どのような根拠でそう決定したのかが問われる場面でAIが使えないということがあります。なので、私はなるべく人間の意思決定のルートどおりに、より人間らしいAIを作るにはどうすればいいのかを考えています。いまAIと会話はできますけど、AIと共感することはできないので、より人間らしいAIを作るにはAIに感情という部分を理解させる必要があると思います。そのために心理学の知見を使い、人間の意思決定を研究したいと思ったのがきっかけです。人間の意思決定といってもいろいろあるので、今回はゲームという限られた場面における人間の意思決定を研究することにし、人狼ゲームという題材を選びました。」

Bさん「私は、深夜ラジオが大好きで、そのきっかけが星野源さんでした。星野源さんの楽曲が好きで、あっラジオやっているんだ!ってなって、星野源さんのオールナイトニッポンを聞き始めました。

それから、いろんなオールナイトニッポンを聞くようになってラジオが好きになったんですけど、PRの研究テーマを決めるとき、ラジオは他のメディアと比較したときに独特な媒体だなと思ったんです。いま若い人たちは短い動画などが好きだと思うんですけど、いろんな世代にラジオの魅力を知ってもらうにはどうすればいいのか、そして、なんで深夜ラジオって独特な雰囲気があるのかということを調べていこうと思いました。」

Cさん「私は、ボーイズラブ(BL)の人気拡大に伴うゲイへの意識の変化について研究しました。もともと1年のときはこの研究テーマではなくて、日本のアニメや漫画についてやりたいなと思っていたんですけど、授業の中で、調べてすぐに答えが出てしまうものは研究テーマにはできないと言われて、悩み始めていた頃に、私の好きな俳優がボーイズラブのドラマに出演して、そのとき、ボーイズラブってなぜこんなに人気があるんだろうと思ったんです。それまでは、私のボーイズラブへの意識としては、なかなか理解が難しい領域と思っていたんですけど、自分の好きな人気の俳優がドラマに出るようになってはじめて、ボーイズラブって、こんなに有名な人を採用するくらい人気になっていたんだと気づきはじめました。それからSNSを使ってボーイズラブについて調べるようになったんです。そしたら、自分はゲイなんだけど、友人からゲイとボーイズラブを同一視するような発言を言われてすごく傷ついたというコメントを見て、そのとき私は同一視するのを当然のように思っていたので、この問題を少し深めて自分の中ではっきりさせたいと思い、3年間かけて研究してみようと思いました。」

この2年間の探究活動で苦労した点を教えてください。

Aさん「もともと私は、より人間らしいAIをつくるにはどうすればいいかを考えていて、最初は実際自分でつくるところまでやろうかなと思っていたんですが、これを2年間でやるのは厳しいと思い、テーマをどんどん妥協していく形になりました。なので、本当に自分がやりたいことは何なのか、これだけはやりたいというのを見つけるのがいちばん苦労しました。でも結果として、本当にやりたいことにうまくつながるような形ができたと思っています。」

Bさん「オールナイトニッポンについての先行研究というのがあオールナイトニッポンまりないんです。ラジオについてはあるんですが、オールナイトニッポンを題材にした先行研究がなくて、オールナイトニッポンの歴史について書かれた本はあっても、深く研究しているものは少なくて、そういった点で先行研究がないのは、やりがいはあるんですけど、どういう方針でいけばいいのかすごい苦労しました。あと深夜番組はたくさんあるので、最終的にオールナイトニッポンに決めたんですけど、どの番組を研究するかは、いろんなラジオ番組を聞いて悩みました。」

Cさん「私が一番苦労したのは、研究の説得性をもたせるための詳しいデータや資料が集めにくいことでした。このテーマはそうしたものを集めるのがとても難しくて、ボーイズラブとかを好む人はそれを表に出すことを控える傾向があって、なかなか言い出せなかったり、つつましく好んだり、それを公にしている人が少なかったり、というのがあるので、いまどのくらいの数の人が好きで、それがどのくらいの男女比で、ということが正確にデータをとれない、データの正確性に欠けるということがありました。実際に私がスライドで使ったデータも2017年という古いデータで、データの数も少なくて、今も難しいと思っている点です。それと、ゲイの意識変化を取り上げた部分では、聞く人を周りに探すのが難しいことがありました。なので、YouTuberとかオープンにしている芸能人の話を一生懸命に聞いて、それをメモするということをやっているんですけど、それも信ぴょう性に欠ける部分があって、みんなに見せているものなので、本当にリアルな話なのかということがたくさんあります。だからSNSに匿名で出している話は信用できるのかな、リアルな情報なのかなと思って見ているんですけど、SNSを毎日コツコツ見ていくのは大変で、そこがどうにかならないかなと思っています。」

横浜国際高校の探究活動についてどう思いますか。

Aさん「いろいろなことが身に付くと思っています。まず、学問や学術に向かうあるべき姿勢や態度というのが学べたと思います。例えば、アンケートをとるときに、調査対象者が自分の情報をあまり表に出したくないような質問のときに、その人たちにどのような配慮をしてアンケートを取ればよいかに気をつかうようになりました。もう1つは、取ったデータに真摯に向きあうことです。データがうまく取れなかったからごまかしてしまおうとかじゃなくて、出たデータを適切に分析して、ごまかさないで出す、無理だったところは無理だったと出す、そういうふうな研究の姿勢を学びました。あとは、科目の授業との関連性です。たとえばアンケートのデータを分析するとき、1年で学んだ情報Ⅰとか、今2年で勉強している数学Bで扱っている分析の手法を使うことができます。そうした学んでいる科目との関連性が見えてきて面白いな、勉強になるな、と思いました。」

Bさん「私はSRやPRをとおして自分が好きな分野がとても明確になったと思っていて、たとえば、ラジオが好きというだけではなくて、この研究を通じてマーケティングという分野が自分は得意というか興味があることに気づけました。そして、大学の学部選びとか、どういう分野に自分は興味があるのか、ということに気づけたので、いい授業だと思っています。一方で、生徒の中には意識の違いがあって、特に研究は面倒くさいという声もあります。また、2年のPRは多くのクラスに分かれるんですが、そこで指導してくれる先生の個性や指導方法から影響を受けることもあると思っています。」

Cさん「横浜国際の探究活動は、自分がいったい何にBLとゲイカップルの認識差異興味を持っているのかを考えたり探したりする大切なチャンスだと思っています。大学で学びたいことを決める場合も、横浜国際ではこの探究をとおして1年生のときからそれを考えはじめるので、やはり他の高校より先にスタートが切れますし、自分のことについて考える期間が長くとれるという大きな価値があると思います。」

 

来年度、3年次には英語の論文を書くことになりますが、高校時代の探究活動を今後どのようなことにつなげていきたいですか。

Aさん「これから大学に行ったり企業に就職したりしますが、グローバルな社会の中で、英語で何かすることが増えていると思います。そうした意味で、いまは日本語で論文を書いて、とりあえず自分の伝えたいことはできましたという段階だと思います。今度はそれを英語で書いて伝えてみましょうというのがDRだと思うので、そういう段階を踏んでいくことで、社会人になったときに、ビジネスの場で自分の伝えたいことを英語で伝えられるようになると思います。」

Bさん「日本のラジオを題材にしているので、英語にするのは難しい面があると思っています。でも将来学びたいことや就きたい職業に関しての専門用語を知るきっかけになると思います。自分が専門的にやりたいことを英語で知ることによって、将来、グローバルなコミュニケーションの場につなげられると思っています。」

Cさん「私はPRの時点で内容がまだ薄いので、まずもっと日本語の論文の段階でもっと内容のあるものにしていきたいと思います。その上でDRにつなげていけたらと思います。それから、英語の論文にすることの意義は、やはりボーイズラブはもう世界中で人気のジャンルになっているので、私の日本語の論文を英語で書くことによって、横浜国際の中だけではなくて、より広い世界に発信して読んでくれる人が出てきたら、この問題について考えてくれる人も増えると思っています。」

 

横浜国際高校の探究は、本校が文部科学省より「スーパー・グローバル・ハイスクール(SGH)」に指定されたときから構築してきた特色のひとつです。高度な英語教育、第2外国語の学習、姉妹校交流などとともに、横浜国際の探究活動を通じて、将来のグローバルリーダーになる資質能力を身に付けていってほしいと思います。

 

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