横浜国際高等学校 > 在校生・保護者の方へ > 校長だより(Vol.15)IBコース1年次生に聞く~ 数学探究フィールドワークで考えたこと~
更新日:2024年7月19日
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5月22日(水)、国際バカロレア(IB)コースの1年次生が、東京理科大学の数学体験館を訪れ、数学探究フィールドワークを行いました。数学に関する体験的な活動を通じて、数学が応用されている様々な事例を学び、数学の理論や公式の有用性を理解して、1月以降に学ぶDP数学に向けて、探究的な学びの姿勢を身に付けます。今回は、IBコースに入学して2ヶ月が経ち、数学探究フィールドワークに参加した3人のIB1年次生にインタビューしました。
「私はワクワクして嬉しくて・・・。数学のできる人や数学に造詣の深い人が、よく数式を見て、『あっ美しい!』とか、『あっ面白い!』とか言いますが、私はこれまでそれに共感できなかったんです。言ってみればただの数字と記号の羅列、と見ていたんですけど、数学体験館というのは、式やグラフが何を表すかについて視覚的に理解したり、また触って体験できたりする場所でした。だから、式やグラフを見て美しいとか面白いとか言う人に対して、確かに面白いね、と言えるようになって、それがすごく嬉しく思いました。」
「数学のできる人が賢い理由をちょっとわかったような気がしました(笑)。私が取り上げたのは「缶の詰め方」(下図を参照)でしたが、日常に潜む説明できない不思議というか、すぐには自分の頭の中で結論がつかないもの、なんでこういう結果になるんだろうと説明がつかないようなものに対して、数学者は、それを数学という学問に結び付けて解明します。そこに、日ごろ身近に感じているものと数学とのつながりを感じました。数学者ってこんなに賢いんだ(笑)、という尊敬の念を抱いたと同時に、数学への興味・関心がより増しました。」
「数学と自分とのキョリがすごく縮まったなと感じています。今まで中学校などで学んできた数学では、数学と現実とのつながりがあまり感じられませんでしたが、数学体験館では、ただの数式とか定理とかではなくて、それが現実の世界で、ここに使われていますよ、と紹介してくれました。それを聞いて、意外なところに数学ってあるんだなと感じました。こうして数学の勉強をしてみると、この定理は日常の中の何かに結び付いているんじゃないか、とか自分で考えるようになって、より数学とのキョリが縮まりましたし、数学が楽しくなった経験でした。」
<PACK THE CANS !>
~箱に詰められる缶の数は最大何個でしょう?~
左側の箱を見ると、全部で40個の缶が敷きつめられ、もうこれ以上の缶を入れることはできないように見えます。しかし、右側の箱にように缶を敷きつめると、実はもう1個、缶を入れることができて41個の缶が入ります。このように、ある図形を使って隙間も重なりもなく平面を敷きつめることをtessellation(テセレーション)と呼び、身近な服やカーテン、建築物のタイル張りなどにも応用されています。
「解法の暗記とはまったく異なるという点で2つは共通だと思います。IBコースで数学を学ぶときは、学びの主体が自分たちで、自分たちで授業をすることになります。先生が中心となって授業をするのではなくて、私たちが考えて、こうやって伝えようと決めて、授業をします。その過程で私たちはいっぱい考えます。数学の現象とか定理とかを理解しなければと思って一生懸命考えます。その後、どうしたら相手に伝わるかということを考えます。自分がこの法則を初めて見たときに、なんでわからなかったのかな、とか、解きほぐしていく作業です。それは解法の暗記とは根本から違います。数学体験館での学びも同じようなものでした。解説の展示も解き方は書いてなくてヒントだけ。だからレポートを書くにあたっても、どうやって導き出されたか、何のために導き出されたか、そういうことを一つひとつ考えなければならなくて、それがすごく生産的で、自分の成長につながる学びだと思いましたし、毎日のIBの数学の学びと数学体験館の学びは共通だと思いました。」
「私はIBコースで学ぶ数学と今回の数学体験館への訪問はお互いに補いあっているというか、つながっているんじゃないかなと考えています。IBコースの数学で特徴的なことは英語でやることです。英語と日本語では頭の脳の使う部分が違います。それは、英語を習得する大きな支えにもなるし、先生もすごくサポートしてくれるし、全面的に押し出してくれるし、すごくいつも助かっています。一方、勉強って五感を使って体験した方が関心も高まるし、モチベーションにもつながると思います。ふだんの授業は、目で情報を受け取って頭を使って理解しますが、数学体験館は五感で数学を感じることができるので、そういう面で、授業にない部分を数学体験館が埋めてくれた感じがします。そういうふうに2つはつながっていると思います。私は数学が苦手でIBもHL(上級レベル)は絶対に取らないと思っていましたが、入学して、日ごろの授業で学びを深めて、それで体験館に行ってみて、HLを選択しようと気持ちに変わりました。」
「私の中ではふだんの授業も数学体験館も、自分で考えるという機会と人とコミュニケーションをとるという機会を増やしてくれた、提供してくれた、と考えています。ふだんの授業は生徒が先生役のように事前に問題を解いて、みんなの前で説明をしなければなりません。また、教科書も先生もすべてを答えてくれるわけではないので、どうやったら他の人によく伝わるか、自分でよく考えて授業をつくらなくてはいけません。さらに、授業中、わからないことがあったら、他のクラスメイトに聞いていいし、クラスメイトはそれにどう答えたらいいか考えながらコミュニケーションを取るというところが私にとって新しい数学の形でした。それは数学体験館でも同じで、ガイドはあってもすべての数式や証明が書いてあるわけではないので、それを自分で考えたりとか、クラスメイトとコミュニケーションを取って考えたりとか、そういうところが、これから社会で自分のスキルにもなっていくと思います。自分で考える力、それから相手とコミュニケーションする機会を与えてくれたという点で、私にとってふだんの授業も数学体験館も貴重なものとなっています。」
「私たちはたまに自分たちのことを“変人”と言い合ったりします(笑)。なぜかと言うと、中学の中で、私たちはちょっと変わった人、と感じるときがあったんです。どういう時にそうだったかと言うと、日常ふとした瞬間に、人はなぜ生きているのか、とか考えるような中学生で、中学校では周りから、えっ!て感じだったんですが、ここに来たら全部受け止めてくれて、一人ひとり違って、関心も得意なことも全部違うことを全員が無意識にわかってくれるような場所なので、すごく心地がいいです。ですから自分がちょっと変かなと思っても、恐れないで(笑)、ここに来て、自分と違う誰かとの関わりを楽しんでほしいです。」
「私も中学校の頃は人間関係であったり、勉強のことであったり、悩むことが多かったんですけど、それは周りから自分が認めてもらえていないと感じることが多くて、その影響が大きかったように思います。ですけど、ここはみんながそう、というか、みんな違ってみんないいというか、みんな違ってみんな“変”(笑)、というか、自分たちが持っている個性だったり、趣味の独特さだったり、そういう“変”をみんながもっていて、それをお互いが尊重していける場所なので、IBコースをめざしている人は、恐れないで、自分が認められる場所、そして自分も他の人を認める場所だと思って、挑戦してほしいと思います。」
「私から言えることは、IB生に必要なことは利他的であることと自分の興味をどんどん広げることだと思っています。IBに来ると、自分は何に興味があるのか、自分は何が好きなのかということを追求することが求められます。そして他者とコミュニケーションを取って、心を開く人であることがすごく求められるところだと思います。なので、いまIBに入るために一生懸命頑張っている人は、頑張っていることはすごく素敵なことだと思うんですけど、自分のことだけでなくて、他人の理解を助けてあげられるような利他的な人であること、そして自分の考えとか自分の興味をあきらめずに伸ばし続けられる人、そういうことを大切にしてほしいなと思います。」
IBコースに入学した生徒は、1年次の春に数学探究フィールドワークを体験します。この体験は、数学と現実世界とのつながりを発見する場になっています。しかしそれだけはなくて、1月からはじまるDP数学の学びに向け、その素地となる「探究という頭の使い方」の土台づくりになっていることを感じました。これまでは、問題は他人から与えられ、自分は解くだけの役割だったかもしれません。しかしこれからは、問題を出すのも問題を解くのも自分、しかも答えが1つでなかったりする探究が始まります。応援しています。
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